CEO詐欺というと、いまも「偽のメールが届く」という形で語られることが多いと思います。

しかし実際の入口は、ビジネスチャットとSNSに移りつつあります。

警察庁のSOS47特殊詐欺対策ページは、2026年2月13日付の注意喚起「法人を対象とした詐欺(ニセ社長詐欺)に注意!」で、次のような手口を紹介しています。公開されている法人のメールアドレス宛てに経営者を装った電子メールが届き、業務をよそおって 「SNSグループ」の作成や、招待用QRコードの返信を指示される。そのグループには、振込権限を持った担当者を含めるよう指示される場合があるとされています。

一方で、同じ警察庁のサイバー部門による「ビジネスメール詐欺に注意!」のページは、振込先口座の変更や海外口座への送金といったメール上の手口を中心に構成されており、チャットやSNSへの誘導については触れられていません。

本記事では、この差分にあたる部分 — チャットに移った後に何が起きるかを整理します。


入口は2種類ある

「Teamsで社長を名乗るメッセージが来た」という相談は、実際には性格の異なる2つに分かれます。対処が違うので、まず切り分けます。

経路 起点
A. 外部から誘導される メールやSMSで接触 → LINE等のSNSグループへ移動 社外
B. Teams等の中で名乗られる 組織外ユーザーからの個別チャット 設定の問題

A. 外部のSNSグループへ誘導される

警察庁の注意喚起が扱っているのはこの形です。最初の接触はメールで、そこから自社の管理が及ばない場へ移動させられます。

移動させられた先には、こちらの情報システム部門が入れた対策は一切効きません。ログも残りません。「グループを作ってQRコードを送ってほしい」と言われた時点で、これは通常の業務指示ではないと考えて差し支えありません。

B. Teamsの中で名乗られる

Microsoft Teams には、組織外のユーザーとチャットできる**外部アクセス(フェデレーション)**の設定があります。この設定が有効な環境では、社外のアカウントから自社メンバーへ個別チャットを送ることができます。

表示名は送信側が設定するため、役職者の氏名を表示名にすることも可能です。受け手から見れば「Teamsに社長からチャットが来た」という体験になります。

「Teamsに届いた=社内から」という前提は成り立ちません。 まず自社の外部アクセス設定を確認してください。これは運用ルールではなく、管理者設定で絞れる範囲の話です。


チャットは入口にすぎない

ここが本記事でもっとも伝えたい点です。

チャットだけで大きな金額が動くことは、実際にはあまりありません。 相手も、文字のやり取りだけで振込を通せるとは考えていません。チャットは信頼をつくる段階であって、決め手は音声とビデオ会議です。

2024年に香港で発生した約37億円の被害は、この構造をよく表しています。財務担当者は当初、CFOを名乗るメールをフィッシングだと疑っていました。 ところが指定されたビデオ会議に参加し、CFO本人だけでなく日頃から見知っている複数の同僚が映って自然に会話しているのを見たことで、疑念が完全に消えています。

つまり、順序はこうなります。

チャット/SNS で接触・関係づくり
        ↓
音声メッセージ・電話で「本人らしさ」を上乗せ
        ↓
ビデオ会議で疑念を消す
        ↓
送金

チャットの設定を締めるだけでは、この流れは止まりません。 止まるのは入口Bだけで、Aは残りますし、そもそも音声・映像の段階に入られた時点で、見た目と聞こえ方は判断材料になりません。


現場で使える確認の型

技術より先に、この3つを決めておくことをお勧めします。順に、費用が低く効果が早い順です。

1. 別経路での確認を必須にする

指示を受けたのとは別の経路で、事前に登録されている連絡先に確認します。

⚠️ チャットに書かれている電話番号にかけ直すのは確認になりません。 相手が用意した番号である可能性があります。社内名簿や人事システムに登録された内線・携帯へ、こちらから発信してください。

2. 「グループを作る」「QRコードを送る」に応じない

警察庁の注意喚起にある手口の要です。業務指示としてSNSグループの作成やQRコードの返信を求められた場合、いったん止めて上長に共有するというルールを、一行で構いませんので明文化してください。

3. 止まってよい条件を先に決めておく

「緊急」「内密に」「今日中に」が揃った依頼で、担当者が確認のために止めても評価が下がらないことを、あらかじめ組織として明示します。

CEO詐欺が成立する条件は、技術的な巧妙さよりも**「社長を待たせてはいけない」という心理**です。ここを外さないと、どれだけ手順を作っても現場は飛ばします。


設定面でできること

対象 確認すること
Microsoft Teams 外部アクセス(フェデレーション)の範囲。全許可になっていないか、許可ドメインを絞れないか
全社共通 経営層の氏名・役職・メールアドレスがどこまで公開されているか(警察庁の注意喚起では、公開されている法人アドレスが起点とされています)
経理・財務 送金指示を受け付ける経路を限定できないか。「チャットでの送金指示は受け付けない」と決められる業務か

音声・映像の段階に入られたとき

ここまでの対策は、すべてプロセスで止める話です。それでも通過してしまった場合、最後に残るのは「この音声・映像は本物か」という問いになります。

肉眼と耳での判別には限界があります。まばたきの不自然さや口の同期といった従来の手がかりは、生成モデルの進歩によって年々あてになりにくくなっています。

G1 Technologyが国内で提供するspellbreaker(by ProbeTruth)は、音声・動画・画像がAIによって生成・改ざんされていないかを検証し、判定の根拠を説明可能AI(xAI)のレポートで提示するツールです。出力は較正済みの確率であり、真偽を自動的に確定するものではありません。有資格の担当者が根拠を確認したうえで判断する運用を前提としています。

導入を検討される場合も、まず上の「確認の型」を先に整えることをお勧めします。 検知は、プロセスで拾いきれなかったものを補完し、判断の根拠を残すための手段です。


まとめ

  • CEO詐欺の入口はメールからビジネスチャット・SNSへ移りつつある(警察庁が2026年2月に注意喚起)
  • 相談は**「外部SNSへの誘導」と「Teams内でのなりすまし」**の2種類に切り分ける。後者は管理者設定で絞れる
  • チャットは信頼づくりの段階にすぎず、決め手は音声とビデオ会議。設定を締めるだけでは止まらない
  • まず別経路での確認・QRコードに応じないルール・止まってよい条件の3つを決める

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参考

  • 警察庁・SOS47特殊詐欺対策ページ「法人を対象とした詐欺(ニセ社長詐欺)に注意!」(2026年2月13日)
  • 警察庁「ビジネスメール詐欺に注意!」