この記事のポイント
- 証拠・個人情報・調査資料を外部のクラウドに送れない組織では、インターネットから切り離した環境(エアギャップ)でディープフェイク検知を動かすことになる
- 設置場所を変えても検出能力は変わらない。変わるのは機器構成、処理時間、更新の方法、保守の受け方で、ここを導入前に決めておかないと運用が止まる
- 見積もりの前に決めるべきは、メディアの種類、件数、報告書の要否、保守時間帯の4点
なぜクラウドに送れないのか
ディープフェイク検知の多くはクラウドで提供されています。ファイルをアップロードすれば数分で結果が返り、モデルも自動で更新されます。それでも、次のような理由でクラウドを使えない組織は少なくありません。
- 扱うファイルそのものが機微情報である。 捜査や訴訟の証拠、保険金請求の写真や書類、本人確認の顔画像と身分証は、組織の外に出すこと自体が規程で認められていない場合がある
- 取引先との取り決めでデータの所在が決まっている。 委託元から預かった資料を、委託元が認めた場所以外で処理できない
- ネットワークの構成上、そもそも外に出られない。 業務端末がインターネットから切り離されている
こうした組織にとって、「クラウドに送らずに使えるか」は機能や精度より先に確認する、可否を分ける条件です。保険金請求の写真や書類での具体的な論点は、損害保険会社のディープフェイク対策ガイドで扱っています。
4つの導入形態の違い
| 形態 |
データの所在 |
モデル更新 |
保守 |
向いている場面 |
| クラウド SaaS |
ベンダーのクラウド |
自動 |
リモート |
件数が多く、データを外に出せる業務 |
| プライベートクラウド/VPC |
自組織のクラウド環境 |
ベンダーと調整 |
リモート |
データの所在地に要件がある |
| オンプレミス(ネットワーク接続あり) |
自組織のデータセンター |
ネットワーク経由 |
リモート可 |
社内ネットワークの中で完結させたい |
| オンプレミス(エアギャップ) |
切り離された機器の中 |
物理媒体で持ち込み |
現地対応のみ |
証拠・機密資料を外部と一切接続できない |
エアギャップは最も厳しい形態で、以下の8項目はすべてこの形態を前提にしています。ネットワーク接続のあるオンプレミスでも、更新と保守以外の項目はそのまま当てはまります。
エアギャップで確認すべき8項目
1. 扱うメディアの種類と件数
画像・動画・音声のどれを扱うか、1週間に何件か、同時に何件処理したいかで、機器の構成が決まります。動画は1件あたりの計算量が大きく、静止画は件数が多くなりがちです。「全部扱いたい」と「まず1種類から」では必要な機器が大きく違うので、最初の運用範囲を決めてから見積もりに進むのが近道です。
2. 判定だけか、報告書まで機器の中で作るか
判定(確率と可視化)だけであれば、比較的小さな計算資源で動きます。一方、判定結果を文章の報告書にまとめる機能は言語モデルを使うため、計算資源の多くを占めます。構成によっては判定と報告書生成を同時に処理できず、順番に処理することになり、1件あたりの時間が延びます。
報告書が業務上必須なのか(たとえば調査記録に添付する)、判定だけで足りるのか(たとえば一次の振り分け)を先に決めてください。
3. 報告書生成に使う言語モデルの提供元
報告書を機器の中で生成する場合、その言語モデルがどの事業者のどのモデルで、どのライセンスで提供されているかを確認します。組織によっては、調達できるソフトウェアの提供元に基準があります。ベンダーに、使用するモデルの名称と提供元、ネットワークに接続せずに動作することを書面で確認しておくと、後の調達手続きで止まりません。
4. 機器の調達と設置
エアギャップ環境では、機器を誰が調達し、どこに設置し、誰が管理するかを決める必要があります。確認すべき点は次の通りです。
- ベンダーが推奨する機器仕様(GPU、メモリ、記憶装置)と、その仕様で想定される処理時間
- ライセンスが特定の機器に紐づく方式かどうか。紐づく場合、機器が故障したときのライセンス再発行の手順
- 機器の調達から稼働までの期間(GPU を含む機器は納期が長くなることがある)
5. モデル更新の持ち込み手順
ディープフェイクの生成手法は数か月単位で変わります。エアギャップ環境では、新しいモデルをネットワークで受け取れないため、物理媒体で持ち込むことになります。
- 更新の頻度(年に何回か)と、更新のたびに何が変わるか
- 持ち込む媒体の検査方法(ウイルス検査の実施証明を書面で出すか、立ち会いのもとで検査するか)
- 入館時の立ち会いの要否と、媒体の持ち出し可否
更新の間隔が長いほど、新しい手口への対応は遅れます。クラウド版との差がどの程度になるかを、ベンダーに確認しておいてください。
6. 保守とサポートの受け方
リモート接続ができないので、障害時は現地対応になります。
- 受付時間帯(平日日中か、24時間か)と、受付の言語
- 障害時の初動の目安(当日中に初動があればよいか、当日中の完全復旧が必要か)
- 機器故障時の復旧方法(初期状態の媒体から再導入するのか、ベンダーが交換するのか)
要件を高くするほど費用は上がります。「当日初動・翌日以降復旧」で業務が回るかを先に判断すると、過剰な保守契約を避けられます。
7. 結果の扱い方
設置場所に関わらず、ディープフェイク検知の出力は確率的な判定です。結果を業務でどう扱うかを決めておきます。
- 出力は較正された確率と不確実性の幅であり、自動的に真偽を確定するものではない
- 判定に添えられるヒートマップは、モデルが判定のときに影響を受けた領域を示すもので、改ざんされた箇所そのものを示すものではない
- 最終判断は、結果を読み解く担当者が行う
調査記録や報告書に結果を添付する場合は、何を添付し、誰がどう確認したかを残す運用にしておくと、後から説明できます。
8. 検出対象の範囲
製品によって、どの種類のディープフェイクを検出対象にしているかは異なります。導入前に、次の点をベンダーに確認してください。
- 画像: 全体がAIで生成された画像か、実在の画像の一部を書き換えたものか
- 音声: 全体が合成された音声か、実在の音声の一部を差し替えたものか
- 動画: 全体が合成された動画か、顔だけを入れ替えたもの(フェイススワップ)か
自組織で問題になっているのがどの種類か(たとえば、書類の数字の書き換えが中心なのか、なりすましの顔映像が中心なのか)を先に整理し、実際のサンプルで検出範囲を確かめるのが確実です。
Spellbreaker の場合
Spellbreaker(ProbeTruth, Inc. 開発、G1 Technology が国内で提供)は、クラウド SaaS(SOC 2 Type II)、プライベートクラウド/VPC、オンプレミスの3形態で提供しています。上の8項目に対応する点は次の通りです。
- 機器: エアギャップ構成の推奨ハードウェア仕様を提示します。扱うメディアの種類と件数、報告書生成の要否で構成が変わります
- 報告書: 報告書の言語、詳細度、可視化の内容は、利用者(調査担当者、技術者など)に合わせて調整できます
- 検出対象: 現行版が検出対象とするのは、AI生成の画像・音声と、AI生成の動画およびフェイススワップです。実在の画像の一部を書き換えた改ざんの検出と位置の特定は、開発ロードマップ上の機能です
- サポート: 国内の一次サポートは G1 Technology が日本語で担当します。更新の方法と頻度、保守の時間帯は導入時に取り決めます
- 出力: 較正された確率と不確実性の幅で返るフォレンジック上の意見証拠であり、自律的な判定ではありません。最終判断は担当者が行うことを前提に設計されています
調査業務への組み込み方はデジタルフォレンジック調査でのディープフェイク検証で、ツール選定の全体像はディープフェイク検知・検出ツールの選び方で扱っています。
まとめ
- エアギャップ環境でのディープフェイク検知は、設置場所の問題ではなく運用の設計の問題である
- 見積もりの前に、メディアの種類、件数、報告書の要否、保守時間帯の4点を決める
- 報告書を機器の中で作るなら、言語モデルの計算資源と提供元を確認する
- 更新は物理媒体で持ち込むため、頻度・検査・立ち会いの手順を先に取り決める
- 検出対象の範囲は製品と版で異なる。自組織の問題に合うかを、実際のサンプルで確かめる
エアギャップ環境での導入のご相談はお問い合わせからお寄せください。扱うメディアと件数をお知らせいただければ、構成の考え方からご説明します。
よくある質問
クラウド型のディープフェイク検知と、オンプレミス型で検出の仕組みは違いますか?
同じ製品であれば、検出に使うモデルの考え方は同じです。違いが出るのは運用面で、処理時間、モデル更新の頻度と方法、保守の受け方が変わります。エアギャップ環境では更新を物理媒体で持ち込むため、クラウド版より新しい手口への対応が遅れる期間が生じます。導入前に更新の頻度と手順を取り決めておくことが前提です。
報告書の生成もネットワークに接続せずに行えますか?
報告書を生成する言語モデルを同じ機器の中で動かす構成であれば可能です。ただし言語モデルは計算資源を多く使うため、判定と報告書生成を同時に処理できない構成では1件あたりの時間が延びます。判定だけでよい用途と、報告書まで必要な用途で、必要な機器は大きく変わります。
エアギャップ環境に導入すれば、ディープフェイクを見落とさなくなりますか?
いいえ。設置場所は検出能力を変えません。検出の対象範囲と精度は製品と版によって決まり、統制されたベンチマーク条件下の値は実運用では対象メディアの品質や圧縮で変動します。出力は較正された確率で返るフォレンジック上の意見証拠であり、最終判断は担当者が行います。
導入前にどこまで決めておけば見積もりができますか?
最低限、扱うメディアの種類(画像・動画・音声)、1週間あたりの件数と同時に処理したい件数、報告書が必要かどうか、保守の対応時間帯の4点です。これで機器構成とライセンスの範囲がほぼ決まります。更新の持ち込み手順や立ち会いの要否は、その後の詳細設計で詰められます。
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